「仕事のやり方」?


よーやくいまやってる法案の終わりが見えてきた。俺はこれで4回目の法案だが、どれも異常事態に対処するための緊急措置で短期決戦だったので、今回のように通常の法案のスケジュールにのっとって夏からじっくり腰を据えて、というのは実は初めて。で、かなり周囲のひとには愚痴りまくっているが、はっきり言って今回の法案が一番精神的にしんどかった。

まぁ理由は色々あるし、役所内でもこのブログを見て下さってるひとがたくさんいるので具体的に書くのはやめとくが、「こういう状況もあるんだな」というのを身をもって知ることができたのはやっぱりあとあとの財産になるだろう。

あと、一応名刺係長として、後輩3人に支えてもらうポジションだったというのが自分にとっては一番デカい。俺くらいの若い年次でこういう境遇にいるやつはほとんどいないので、極めて得がたいチャンスだったと思う。誰が人事を決めたのか知らんが、ほんとに感謝したい。以前、人事を担当していたある人が、自分の後輩がほとんど部下を持った経験がないまま留学に行って補佐クラスで帰国してしまったと言っていつも嘆いていたが、それを考えると、後輩の直接の指導は3年間で5人やったことになるのでかなりラッキーなほうだろう。しかも5人とも年の差1歳前後なので気楽にやれた。

んでタコ部屋内で俺に何でも任せてくれて好き放題やらせてくれた室長にも感謝したい。こいつらがどんどん成長していく様を見ててむちゃくちゃ楽しかったし、逆に上司としての自分が彼らの目にどう映っているのかという客観的な自己評価をするまたとない機会も得られた。

とは言え、たぶん自分なりにスタンスは決めてたつもりでも、元来優柔不断な性格なので、いろいろ方針がぶれたり、さっき言ってたことと今言ってることがズレてて彼らを混乱させたり、たぶんものすごく迷惑かけたんだろうなと申し訳なく思う。そうやって試行錯誤しながら俺も成長してるところなんですというのは単なる言い訳でしかなくて、俺に振り回されたほうとしてはたまったもんじゃなかっただろうなと思う。次に誰かを指導する立場になったら、同じことは繰り返さないように注意せんといかん。


良くも悪くも俺の仕事のやり方を後輩たちはハタメで見ているわけで、自分としては、あまり明確に文章としてイメージしたことはないが、だいたい次の7点くらいを基本スタンスにしながら仕事をやってきたつもりである。

①どんな仕事でも、基本4要素を最初につかんだ上で取り掛かるし、取り掛からせる。
基本4要素=趣旨、だいたいの着地点、巻き込むべき関係者の範囲、処理に必要な時間の4つ。
要は弾道ミサイルのようなイメージで、スタートとゴールと、その間の道筋をゴールから逆算しながら大まかに決めて、あとはそれに必要なプロセスを淡々を進める。
これは前の職場でお世話になったY企画専門官の仕事ぶりを見ていて、再認識した。彼の合理的かつ正確な仕事の進め方はこれまで出会った誰よりも鮮やか。特に4要素のうち、「巻き込むべき関係者」の範囲設定が天才的だった。これはクソ重要。
なお、この「ゴールを見据えた手法」はある意味では冒険心というか、つまらない仕事のやり方にもなりがちなので、一定の注意は必要。

②政策が決定される本質的な仕事については絶対に手を抜かないし、抜かせない。
それが仮に何らかの文章を作成するような仕事であれば、一字一句抜かりなくゴリゴリやる。例えばその仕事が法案の作成なのであれば、条文が何よりも重要だが、当然、その場その場で重視すべきものは違う。
これは3法案連続でお仕えしたT補佐から学んだ。お前は政策を作る職人なんだから、自分に任された最重要の仕事は絶対手を抜くな、いい加減にやろうとするな、としつこく叩き込まれた。
むちゃくちゃ怒られたし理不尽な叱られ方もいっぱいあったし、上司なのに口げんかしまくったのではっきり言って一番嫌いな上司だが、誰よりも長い時間と苦労をともにした一番大好きで一番尊敬してる上司でもある。俺にとっては師匠以上の存在で、このおっさんと去年3月にお別れしたときは課内でおもくそ泣いた。
今の俺を見て、このおっさんが何と言うか、考えただけで背筋が凍る。まぁこのおっさんと出会えただけでもうちの役所に就職した甲斐があったと本気で思う。
3人にも口すっぱくいったが、場合によっては、大袈裟じゃなく、お前の書いたその一条がこの国に暮らす誰かの生活を変えてしまう可能性もある。それくらい役所の仕事は責任が重いし、いい加減に済まそうなんて絶対思ったらあかんということを認識すべき。

③逆に、政策決定に何ら影響しないどうでもいい仕事についてはできる限り時間と労力を割かないし、割かせない。
役所ははっきり言ってくだらない仕事も山ほどあるので、さっさと方向性とやり方を指示して短時間で終わらせる、多少緩い文言でもポイントさえ押さえていればOK。ただし、力を抜くというだけで、いい加減に済ませるという意味ではなく、ポイントが抜けてたりズレてるようなものは、絶対に認めない。
これは、何でも一番下のレベルでこなさなきゃいけなかった係員時代には考える余裕がなかった項目だが、係長になってある程度判断をしなきゃいけない立場になってようやく視野に入ってきた項目。
ちなみに、「役所は責任の重い仕事が2割、あとはどうでもいいくだらない仕事が8割と思え。お前はどういうわけか、前者の2割組にずっと携わってるんだから幸せだと思え」と②に登場したT氏に言われた。ありがたい話である。

④ものの上げ方・説明の仕方は、ときと場合によって変えるし、変えさせる。
相手の立場やレベルや知識・興味、相手の状況(忙しさ、時間帯、機嫌のよしあし、腹の減り具合等)などが主要な変数。ただし、相手が嫌がってもきちんと話をしっかり理解してもらわんといかんときは多少混み行った説明も粘って行う。
これは今のタコ部屋のF室長の手法が一番印象的。はっきり言ってこの人は戦略家だ。うまい。相手に合わせてポイントをくすぐるのは天才的。ただし、2枚舌というより5枚舌くらいになって自分で混乱に陥ってる場面もごく稀に見受けられたので、同じことを別パターンで言うのもほどほどにしとく必要があるなと感じた。
あと、対政治家、という意味では、前の職場のI企画官。やくざのような見た目がクソ怖いおっさんだが、交渉ごとは天才的で、アタマの回転速すぎ。国会対策の室長やってたから、というのもあるが、とにかくこの人は相手の興味や経歴をアタマの中の電話帳でがっちり押さえていて、そういう対人的なアプローチでぶわっと切り込もうとするのが得意。この人のおかげで一昨年の国会は乗り切れたようなもんである。

⑤自分ひとりで抱え込んで悩む前に、論点を明らかにした上で(+できれば自分なりの対応案を添えて)、どんどん上に上げていくし、上げさせる。
自分ひとりで何でも解決できるほど公共政策の世界は甘くないので、詳しそうなひとを見つけて知恵を借りてさっさと処理するのがベスト。ただし、悩み事を整理できずに(あるいは整理した痕跡すらないまま)混乱した状態で持ち込んだ場合は即やり直し。たぶん俺のこの攻撃を食らって3人は結構苦労したはず。
これは、去年の1〜6月に政省令の大規模改正のサブリーダー任されたときにいやがおうでも学んだ事実。特に建築の世界は事務屋の俺には理解不能な要素が多すぎるので、建築のプロにどんだけ基本的なことでも聞きまくって知恵借りるのがソツなく仕事こなす上でグッド。あと、やべーと気づいた案件はさっさと上げて上に判断させないとあとでめんどくさいことになること請け合い。そういう危機管理的な意識の持ち方は絶対大事。

⑥知らない・分からないことはその場で聞くし、聞かせる
はっきり言って、役所の仕事はむちゃくちゃ幅が広いし、うちの役所はとくにどの省庁よりもマニアックかつ分野がクソ広いので、知らないことがあって当たり前。あとは、知らないという事実に気づいたらどれだけその場で即対応するか。ただし、知らなくても特に仕事に支障ないことについては無理に理解する必要なし。それは自分の興味と余力に応じてご自由に、という世界。
これも去年の1〜6月のときに。

⑦仕事でミスをするのは別にいいが、以前指摘されたミスを繰り返さないように気をつけるし、気をつけさせる。

②で登場したT補佐の口癖は、「仕事なんてやればやるほどミスするもんだ。人間なんだから当然。ただし、ちょっと気をつければ回避できる同じ間違いを繰り返しやるのは絶対許さん」。
これはまさしくその通りだろう。ミスをして怒られるほうだって、怒られたくないし、頑張って次はうまくやろうとするのが普通。
これができない=成長が見られないということ。なので、こういうやつは評価されないと思うし、俺もそんなやつは絶対評価しない。

⑧夜はどんなに遅くても朝は早く来る。
⑨エ○いことはなるべく言わない。言うなら0時すぎてから。

…ノーコメント。

これがどこまで実践できたか分からんが、なるべくどの案件についてもこの基本姿勢を適用しながら処理していた。たぶん3人の仲には、最後のほうは俺の思考パターンがだいたい読めてきたやつもいるんじゃないだろうか。

(と⑧⑨)はいまだにうまく出来ないのでこれからも修行がまだまだ必要だが。
あと、⑦で上司のあり方について言えば、「ミスの指摘の仕方」はたぶん部下のモチベーションを考える上で重要。俺はここの部分が全く下手くそだったと思う。


少なくとも俺は最初の2年半で、公務員だろうが何だろうが、おそらくどんな職種についても必要な基礎スキルはだいたいこの7つくらいかなぁと感じた。それで、この7つをこの半年であれこれ具体の場面で適用する訓練をしてみた。

ある意味当たり前だが、実はこれができないやつが(自分より職業経験が長い人間も含めて)山ほどいるのをいっぱい見て来た。7つが全部揃ってるひとは実は結構少ない。

特に、②③と④が両立しているひとって、案外少ないことにも気づいた。細かいことをぎちぎち詰めるのがうまいひとが、必ずしも他者の理解を得たり、合意形成を獲得したりするのがうまいわけではない。逆もまたしかりで、うまーく人を丸め込んでくるひとが書いた文章を見ると結構雑でわけがわからんかったりもする。
以前、このブログで「政治家的官僚と官僚的官僚の2種類がいる」ということを書いたが(下記URL参照)、この話を別に言い替えればまさに②③と④の対立項である。

http://d.hatena.ne.jp/HE-BOY/20060107#p1
ちょうどこれ2年前の今ごろに書いた記事か。1年生の終わりの時期に、耐震偽装の最初の法案で死んでたころやな。。この当時の中ボスのことを「けっこういい加減」と実に失礼なこと書いてるが、それはその直前にやってた法案のときの中ボスと比べてのことで、今思えばこの中ボスは今までお仕えしたボスの中で一番やりやすいし、優しいし、合理的だし(無駄なこと一切させないし)、頭いいし、ほんとに素晴らしい方だったなぁと思う。

というか、基準法の罰則の大幅強化という、はっきり言ってテクニック的にも条文作成的にも政治的にも死ぬほど厳しいマターをよくあんな短期間でこのひとまとめたなぁと(一緒に担当しながら)つくづく思う。

よく夜中に案件上げようと思ったら眠りこけてて困ったことが多かったけど笑。たぶん向こうに言わせれば、朝きたら俺がタコ部屋の丸椅子の上でボロ雑巾のごとく死んだようにいつまでも寝てるから困ってたんだろうな笑。


いずれにしても、やっぱり基本がしかりしていることが何よりも大切なんだと思う。

まぁこういうことがあいつらにこの半年でちょっとでも伝わってれば、と思うが、この7つの基本姿勢はあくまで俺が勝手に思ってることなので、彼らは彼らなりに自分のスタイルを確立してもらうのが一番いい。タコ部屋にいると、いやがおうでもそばにいる人の仕事のやり方が見えるので、彼ら3人なりに仕事のやり方を模索するには絶好の半年だったんじゃないかと思う。ここで掴んだことを次のプロジェクトで発揮しまくってもらえたら、これほどありがたいことはない。

とりあえず、あと3営業日乗り切れば、半年間の苦労に一区切り。この一連の政策パッケージで日本の外航海運は、内航海運は、そして船員の就職マーケットはどう変わるんだろうか。できれば、建築の世界のような激変は…まぁ一つもまともな規制項目が法案に入ってないし、適用対象も実態上は極めて狭いので絶対そんな事態にはならんだろう。


結構ひとに「文章なげー、短くまとめろ」とか偉そうに言う割りに、自分も気の抜けてるときは文章が思いっきりダラダラするわけで良くないとは思いつつ、まぁブログだしどうでもええか。