[ニュース]税法の遡及適用は違憲、福岡地裁が住宅売却損の控除認める

前に仕事で調べたことあるけど、税法の改正って普通は年度内成立・公布即施行というのが不文律になっている。

しかし、ごくたまに審議スケジュールの関係で施行が4月1日に間に合わないときは、例えば5月に成立・施行したのに改正後の規定自体は4月1日に遡って適用するという経過措置を附則に置く例がちらほら存在する。

あるいは、特殊な税制については、適用開始をあえて1月1日など一定の期日に遡及させるという手法が取られることもある。

↓のニュースで紹介されてる裁判はおそらく後者のタイプの規定が原因となって発生した事件だと思われるが、経過措置が違憲判断にまで至ることがあるんやな。。

ぶっちゃけ話を言えば、法律の附則って立案の最終段階でわーっと書くもんだから、たまに抜けや不適切な経過措置があったりすることもあって、不出来な条文が多いのは事実である。

しかし、個人の権利利益、特に既存の利益について重大な影響を及ぼしかねない部分でもあるので、改めて立法担当者としては十分注意して条文を作成しなきゃいかんと思う。(だけど経過措置ってほんとにテクニカルで欠くのは難解です。)

それにしても、今回のねじれ国会で税法の審議が遅延するおそれが極めて強いので、個人事業者や法人の事業年度に税制を合わせるために、こういう経過措置が追加的に必要になる可能性も十分考えられるわけですが、この地裁判決を踏まえると、そこはどう対応していくべきなんだろうか。。

ところで、この判決は、遡及適用を認めた立法措置自体が違憲なのか、それとも当該規定に従って控除を認めないとした税務署の処分行為のみを違憲としたのか、どっちなのでしょうか。原文みないと分からんね。

1月30日3時8分配信 読売新聞

 改正租税特別措置法が施行前にさかのぼって適用されたため、マンション譲渡で発生した損失を他の所得から控除することを福岡税務署が認めない処分をしたのは違憲として、福岡市の女性が国を相手取り、処分取り消しを求めた訴訟の判決が29日、福岡地裁であった。

 岸和田羊一裁判長は「租税法規不遡及(そきゅう)の原則に違反し、違憲無効。控除を認めるべき」などとして処分を取り消した。
 改正法では、個人の土地、建物などの譲渡に伴う損失を他の所得から控除するのを認めないことにする一方、譲渡や買い替えに伴う借入金がある場合は控除を認める特例が盛り込まれた。2004年4月に施行され、適用はさかのぼって同年1月からとされた。

 判決によると、女性は1997年、同市中央区のマンションを約4800万円で購入し、04年3月に2600万円で売却。同月、同区内に別のマンションを購入した。女性は05年3月、約2000万円の損失を他の所得から控除し、約170万円の還付を求めたところ、法改正を知らされた。女性は直後、同税務署に04年分所得税の更正請求をしたが売却、買い替えに伴う借入金がなかったため、特例措置の対象とならなかった。

 女性は同税務署長に異議申し立てをし、国税不服審判所長にも審査請求をしたが、いずれも棄却。06年提訴した。弁護士を付けず、「国民の財産権を侵害する遡及適用は許されない」と主張。国側は「節税のために土地の安売りを招く恐れがある」などと訴えていた。

 岸和田裁判長は「法改正要旨が報道されたのは遡及適用のわずか2週間前。国民に周知されていたといえない」などと指摘。その上で、「控除を認めないことで不利益を被る国民の経済的損失は多額に上る場合も少なくなく、改正法の遡及適用が国民に経済生活の法的安定性を害しないとはいえない」と判断した。

 油布寛・福岡国税国税広報広聴室長は「控訴するかは判決内容を詳細に検討して決めたい」と話した。

 改正法の遡及適用を巡っては、日本弁護士連合会が「憲法に違反するもので、再度法改正を行って救済措置をとるべき」とする意見書を発表している。日弁連税制委員会の水野武夫委員長は「租税法規の遡及適用を違憲と認めた判決はおそらく初めて。慎重な立法を促すという点でも画期的だ」と話した。