職業人として

最近、日曜の夜にNHKでやってる「課外授業ようこそ先輩」という番組が自分的に面白い。社会のいろんな分野で活躍する先輩が母校に帰って来て、いまの子供たちに自分なりの授業を行う、という内容だ。それぞれの「先輩」が、自分の職業や経験を踏まえて、子供たちに生きるためのメッセージを伝えていく。


先週の「先輩」は、指揮者の小林研一郎。彼は、「自分の隣の席のひとに、一番喜んでもらえる贈り物を考えてみよう」という授業を行った。

いざ、子供たちがとりかかってみると、書けた子のほとんどが、鉛筆やノートといった、学校で使うものを挙げた。そして3分の1の子供たちが、普段隣の席に座っている友達にあげたいプレゼントすら思いつかなかった。小林はいう、「無関心が拡大している現代社会の鏡のようだ」と。

小林が指揮者になりたてだったとき、自分よりはるかに演奏能力の高い楽団員たちに自分がああしろ、こうしろというのが苦しくて仕方がなかった。罵倒もされた。楽団員たちの心がどんどん離れていくような気がした。しかし、指揮者はその苦しみに耐えて、一つのシンフォニーを作り出すために、様々な楽器の演奏者たちの心をまとめあげていかなければならない。そのとき彼は、「ありがとう、という気持ちをもって、楽団員のみんながどうしたいのかに耳を傾けながらやっていくしかない」と気づいた。

1日目の最後に、小林は子供たちにヒントを与えた。「宿題として、おうちのひとたちに、自分が今までもらったものの中で何が一番嬉しかったか、聞いてみなさい」と。そして、「隣の席の友達にいろんな質問をしてみて、何が好きなのかとか、将来何になりたいのかとか、友達のことをよーく聞いてごらん」。

2日目の終わり、子供たちは、それぞれに、友達にあげたい贈り物を挙げることができるようになった。ある子は、将来サッカー選手になりたいという男の子の友達のために、サッカーボールをプレゼントしたいといった。ある子は、苗字から「カメ」という嫌なあだ名を付けられてちょっと困っている女の子の友達のために、彼女が歴史が好きだからということで「レキシー」というニックネームをプレゼントしたいと考えた。

小林は、子供たちに難しい課題は一切与えていない。ただ、自分の周りにいるひとたちのことをよく考えてみなさい、それだけ。そんな単純なことが、実はものすごく難しくなっている。でも、時間をとって相手のことをよく観察してみると、だんだん理解できてくる。そこから、他者への思いやりが生まれてくる。ジレンマを乗り越えてプロの指揮者として活躍してきた彼は、そんなことを今の子供たちに伝えたかったのだろう。



さて、2日間の授業をやっていいよと言われたら、公務員である俺は、今の子供たちにどんな授業をしてあげられるのだろう。やっぱり「みんなが困ってる身の回りの問題を探してみて、自分ならどういう工夫をして解決するか、考えてみよう」だろうか笑。たぶん「身の回りの問題」というのが何なのか全然理解できない子たちがいっぱい出てきてしまって、授業にならないかも。。もう何年か経って、もう一度考え直してみたときに、もっとマシな授業案が考えられるようになってたら、いいなあ。