第2章 現行政策の問題点から見えてくる政策立案の基礎的条件

そこで、ではどういう形でこの負の外部性を解消していくのが適切なのだろうか。これが最も基本的な問題として考えなければならない。

この問題に対して政府はすでに回答を提出している。簡単に言えば、耐震性の低い建築物の所有者の金銭的な負担を軽減してやることによって、耐震改修を行おうという方向へ所有者の意志決定を誘導していこうという考え方である。具体的には、工事費用の一部を政府が肩代わりするための補助制度や税制優遇措置を用意している。しかし、実際には政府の必死の周知努力にも関わらず、これらの制度利用は進んでいないのである。なぜだろうか。

この問いに対して、俺は、「現在の耐震改修促進政策の最大の問題点は、一定水準(現行の新耐震基準)の確保を要求することに固執するあまり、結局誘導措置の利用が全く進んでいないという点にあるのではないか」という仮説を立てた。そして、この仮説に基づけば、個々の建築物ごとに事情を分析していくと、実は新耐震基準に適合させずにもう少し低い水準でもいいという風にすれば耐震性の向上に資する改修工事がどんどん行われるから余地が出てくるのではないかという推論が導ける。どのような形であれ、建築物の倒壊リスクを少しでも緩和される次善的な措置をどんどんやってもらえる環境づくりの政策に切り替えたほうが実は手っ取り早く防災性の向上を図ることができるのではないかという考え方である。

そこで、そのような新しい防災政策の理念を具体的に制度化していくためには、どのような立案上の条件を満たしていれば良いのだろうか。

ここで、そもそも補助制度等があろうがなかろうが、なぜ耐震改修はなかなか進んでいないのかという根源的な問題を考えることで的確に原因を把握しておく必要がある。

その答えは、建築物の所有者の意思決定のあり方に問題があるというのが俺の結論であり、したがって、意思決定のあり方を正確に捉えた上で意思決定に対する関与政策を立案する必要があるということを考えた。