全盲の先生「授業すごい」、生徒に通じた生きる力

こういうニュースがある限り、世の中捨てたもんじゃないとつくづく思う。

8月15日2時29分配信 読売新聞


国語の授業をする新井さん。黒板の左端には板書用の定規がある=小間井藍子撮影

 埼玉県の長瀞(ながとろ)町立長瀞中学校に勤務する全盲の教諭、新井淑則(よしのり)さん(46)にこの夏休み、教え子たちの感想が吹き込まれた声の便りが届いた。「先生が努力してるから私も負けずにやりたい」。

 ハンデを克服して15年ぶりに普通中学校の教壇に復帰してから4か月。生徒たちは、新井さんから生きる力を学び取っていた。

 「目が見えないのに黒板に字が書けてすごい」「宮沢賢治の『オツベルと象』の授業で、象の鳴き声の読み方が情感がこもっていてすごかった」。国語の授業を受け持つ1年生82人がつづった1学期の感想文を、音訳ボランティアが吹き込んだICレコーダー。新井さんは手厳しい意見も覚悟していたが、感謝や驚きの声ばかり。文章の切れ目がわかりにくい点字の教科書を何百回も音読して授業に臨んだことを思い起こし、目頭が熱くなった。

 網膜剥離(はくり)で右目を失明し、1993年に養護学校へ移った。その後に左目の視力も悪化して休職。リハビリを重ね、養護学校や盲学校を経て今年4月、普通中学校への復職を果たした。

 生徒に名前と自己紹介をレコーダーに吹き込んでもらい、名前と声が一致するまで何回も聴いた。生徒の机の裏に点字テープの名前を張り付けた。板書では、字を書く位置を決めるために磁石のついた定規をけい線代わりに使う。

 1年の小沢優一君(12)は「りんごをむいてみせてくれたのには驚いた。障害者への意識が変わった」。野口静香さん(12)も「先生を助けたくて、より積極的に勉強するようになった」と言う。

 新井さんが副顧問を務める文化部は、夏休みに絵本の点訳に取り組む。高田忠一校長(55)は「子供たちが思いやりを持つようになった」と話す。

 新井さんは、生徒たちの表情が見えないもどかしさも感じている。それでも、「教えることは楽しい」と、生徒たちの元気な声を聞くのを心待ちにしている。