似て非なるもの

地下鉄で見かけた、ある人材派遣会社の車内広告。

あなたが探しているのは、
思わず自慢したくなる会社?
思わず我慢したくなる会社?


誰が考えたか知らないが、ある意味でものすごく下手くそなフレーズであり、ある意味でめちゃくちゃうまいフレーズでもある。


「思わず自慢したくなる会社を探す」というのは分かるが、「思わず我慢したくなる会社を探す」ひとなんているのだろうか。。。そんなわけの分からん人はおらん。気にくわない会社に入ってしまうことはあっても、それは「分かってて我慢」なのであって、入る前から「思わず我慢」なんてありえん。そもそも「思わず我慢したくなる」という言葉の意味があんまりよく分からん。「我慢」というのはせざるを得ないものであって、「思わずしたくなるもの」ではない。

二項対立の文章にして読む人間の意識に問いかけたいなら、「自慢」の反意語であり、かつ、「思わず○○したくなる会社を探す」という文章にフィットする語を○○に入れるべきである。俺はコピーライターじゃないのでいい言葉が浮かばんが。。まぁ、たぶん入る言葉なんてなさそうですな。。


しかし一方で、「自慢」と「我慢」は、語句の構造が全く同じなのに、持っている意味は全く違っている語である。

「自我」というように、「自」と「我」はいずれもmyselfを指す語でありながら、うしろにそれぞれ「慢」という語がつくと、なぜか意味が分かれてくる。「自慢」は「自分のことや自分に関係のあることを他人に誇ること」。「我慢」は「辛い状況でも自分の気持ちを抑えてこらえること感情や欲望のままに行動するのを抑え堪え忍ぶこと。辛抱すること」。

今まで考えたことなかったが、同じ意味を持つ漢字で構成されてるのに意味が全然違ってくる。そんな言葉の運命的な組み合わせを無数の言葉の海から発見してきて、とりあえず強引にさっきの「○○」の部分に入れてしまって、そして会社が一番伝えたいメッセージを表現してしまう、その手腕がすごい。

おかしな文章でも人の目引いたモン勝ち、ってことか。。


…ほかにも「自慢」と「我慢」みたいな関係にある言葉ってあるかな。。