既存不適格。

最近、内閣府のサイトで「インターネット・シンポジウム」という企画がスタートしている。ネット上でパネリストが「安全・安心」などをテーマに、今後の社会のあるべき姿について、議論するサイトとなっている。
http://www.net-symposium.go.jp/

どこまで世の中的に役に立つ試みなのかよー分かりませんが、端から見てる分には結構おもろいんじゃないでしょうか。ただ、議論の焦点がふわーっとしていて、大風呂敷広げすぎ感もあるなぁ…。

その中で、パネリストの一人である城山英明のコメントをメモ(俺は彼の授業受けたことないけど、俺がいたときは国際行政論とか国際社会のガバナンス論とかやってたな。。)

最近の耐震偽装問題を見聞きしていても、若干の違和感をもつことがあります。確かに偽装は問題です。しかし、いわゆる既存不適格の問題として指摘されるように、ある時期以前に立てられた建物は現在の耐震基準を満たしていなくても合法的なのですが、客観的に安全性が確保されていないという点では偽装建築物と同様に危険です。しかし、社会的に問題視され、実際に人々が自らの住居を離れざるを得なかったのは、偽装建築物の場合に限られがちです。既存不適格という人々が安心しているが、実は安全ではないという課題が実は重要なのかもしれません。
2006年12月05日 01:37

既存不適格(※)って一見合理的なんだけど、それは制度がトランジションの過程にある「短期」の場合に通用する話であって、「長期」で見ればやっぱりリスクを蓄積させる制度になってるんだろうな。

そのリスクが一気に噴出した最悪のケースが阪神大震災だったわけで、ようやく政府も蓄積したリスクのデカさに気づき始めた。

んだけど、そのリスクの適切な評価の仕方が分からん、リスクを減らすための抜本的なシステムがなかなかうまくデザインできん、という試行錯誤の中にいるというのが今の状況なんだろうと思います。

既存不適格については一度本気でその合理性について突っ込んで勉強したいと思うんだけど(普通は改正法の附則に書くものを初めから本則で書いているという、行政法の立法技術論的にも実に興味深いテーマ)、なかなかいい資料も見当たらず、実際どう分析したらいいんだろうか。

※解説:「既存不適格」
建築基準法上、ある時点で適法に建てられた建築物は、その後、法令が改正されて改正後の基準には適合しなくなっても、とりあえず適法なものとして扱われる、という制度で、現行法令に合わなくなった古い建築物を「既存不適格建築物」という。基準が変わるたびに日本全国の建物に改修を義務付けるとすると、建物所有者に多大な負担を課すことになり、社会的混乱が大きいから、という理由で制度的合理性が説明されている。ただし、一定範囲を超えるリフォームを行う場合には最新の基準に合うような工事をしなければならないこととしており、これにより、長期に既存不適格建築物を存続させないための政策的調整が図られている。
なお、昭和56年6月1日の耐震強度基準の改正で、それ以前に確認を受けて着工した建築物は全て「既存不適格」となっており、安全性の保証がない状態に置かれている。もちろん、そのうち、補強工事をすでに行って現行基準並みになっているものもあるが、これを差し引いた推計値でも、現在、日本全国にこのような耐震強度不足の住宅が全4700万戸中、1150万戸、非住宅で全340万棟中120万棟あるとされており、建築防災政策上の大きな問題とされている。

で、ここからは俺の個人的見解。確かに強度不足の建物が適法に存続してしまっている状況は問題で、城山教授も指摘した通りだと思うが、個々の建築物がどの程度の脆弱性を有しているのかは個別に耐震診断をしてみないことには分からないため、この数字の上辺だけを見て議論をするのはいささか性急だと思う。そこで、むしろ最適な改修プランが個々の建築物ごとに違うことに着目した支援モデルの構築を考えるほうがベターなんじゃないのかというのが、経済研修以来の俺の問題意識。