情報開示政策

(1ヶ月ぶりです。また長い文章書いてしまった…)

明日の法案審議の準備で、ある議員から「偽装事件以来、どれくらい消費者に対する情報開示のための対策が進んだのか」という質問が出たので、それに対する答弁書の案を書いて我が家のラスボスに持っていったときに、2人の間で議論になったのが、

『消費者が悪質な業者に本当にだまされないようにするための環境を作るには、どうするのが一番いいんだろうか?』

という問題であった(着任以後の言動を見る限り、彼は結構消費者問題に一家言ある人らしく、この点では俺も賛同している)。

経済学的には、生産者と消費者の間で情報の非対称があり、市場に失敗が生じているときは、情報の非対称の解消を目的として政府が介入する余地がある、とされている(ほんまかいな)。

そこで、仮にこの考え方が正しいとして、次に具体的な政策立案をする上で検討するべき点は、どのような形で介入するのか、介入するとしてどのような情報を市場に流し込むのが最も適切か、の2つである。

偽装事件以後、建築市場において激しい情報の非対称が生じていたという反省に基づき、政府は様々な情報開示政策の新規採用を決定してきた。情報の質を度外視して量の面だけで考えると、従来の建築市場で共有されていた量を遥かに超える量の情報が今後市場に流れ込むことになる。いずれも、法令による情報開示の義務付け(義務違反に対しては行政処分又は罰則の適用が伴う)という形で施策の体系に位置づけられた。

そして、主に、

①不動産取引に関わる各プレーヤー(※1)ごとに
※1=設計者(個人資格者)、設計事務所(業者)、確認検査機関(業者)、確認検査員(個人資格者)、建築主(宅建業者)、工事請負人(建設業者)

②それぞれが有する業務・財務に関する情報(※2)を
※2=免許登録時の情報、事業報告書、財務諸表、瑕疵保険契約の内容、業務実施体制、過去の被処分履歴など

を消費者に向けて発信する、という形になった。発信の主体は行政であったり、業者自身であったり、様々である。


考え方自体は俺は悪くないと思う。しかし政策立案上の難点を2つ指摘できる。


第一に、局長の言葉を借りれば、「消費者が知りたいのは、危ない業者は誰なのか、ということ。処分履歴を公開したところで、それは行政が違法と認めるレベルにまで至ったケースしか情報として記録されない。むしろ、本当に消費者に役に立つのは、ある業者が、その業務について何件くらい苦情相談やトラブルが発生しているのかという情報じゃないのか。もっと言えば、取り扱い業務量あたりのトラブル件数が分かればベストだ。」

第二に、実際には、「○○業者は、××の情報を公開しなければならない」という条文が書かれた規定は、建築基準法建築士法宅建業法、建設業法、マンション管理適正化法…といろんな法律の中の、いろんなところにバラバラに規定されていて、消費者が体系的に自分の権利を把握しようとするには相当な予備知識が必要になる、という点である。

つまり、消費者のため、と言っておきながら、実は消費者のニーズとのミスマッチが生じている可能性が少なからずあり、そして、いざ消費者が情報が欲しい!と思っても、誰に、どういう情報であれば開示を法的に強制できるのかが分からない。

さしあたって、第一の問題は、今後の情報開示政策を実施していく中で、もっとソーシャル・マーケティングをしながら制度とニーズを刷り合わせていくことで解消するべきだろう。どこまで行政で対応するのか、それとも民間の自主的な活動に任せて自浄作用を促す、という手法もありうる。

そして、第二の問題については、すでにバラバラに存在している各法の規定を改めて統合するというのははっきり言って至難のワザだが、少なくとも、インターネット、出版その他のツールを用いて、例えば

①新築する場合:設計依頼先を探す段階→設計交渉段階→設計契約締結段階→建築確認申請段階→確認取得時段階→着工段階→施工段階→竣工段階→使用開始段階→維持保全段階→改修・建替・除却・転売段階

②建売・中古を購入する場合:物件探しの段階→販売業者との交渉段階→売買契約締結段階→取得後の段階→維持保全段階→改修・建替・除却・転売段階

のように、建築のプロセスを細かく複数の段階に分けた上で、それぞれの段階で消費者はどういう法的なツールを使うことができるのか(=業者に騙されないためにどういう情報を入手する権利があるのか)、

という法的なノウハウを一体的にまとめた情報源が必要ではないかと思う。(実は各段階ごとに、いろんな法律で、いろんな情報を消費者は入手できる形になっている。)

もちろん、消費者は自分の身は自分で守るというのが大原則ではあるが、一生に一度あるかないかの『家を建てる・買う』という場面のために、ただでさえ融資先や業者選びで大変なのに自分を守ってくれる法律の規定まで自分で探して勉強しないと、あとで泣き寝入りしかねない、というのはあまりに酷である。よりどころになるトータルなサポート情報があってしかるべきである。確かに、世には「マイホームで騙されないために」的なお題を掲げたハウツー本は腐るほどあるが、消費者は法的に何が主張できて、何ができないのかという法律論に焦点を絞ったものはまだまだ少ない。

法律をただの読解困難な文字の塊にしてはいけない。条文を作った以上は、みんなの役に立つように工夫を凝らせ。現代の行政官に残された公共の仕事があるとすれば、それはおそらく安全・安心の供給と、市場で不足する情報とノウハウの補給である。

というわけで、次回エントリーから、「業者に騙されるな 〜家を建てる・買うときに役立つ法律集〜」とでも題して連載をスタートしようかと思うくらいである

(気力が続けばね。。←汗)