Security Policy

振り返ってみると、俺が入社してから、我が社に関わる事件が新聞記事のトップから消えた日はなかったといっていいくらい、我が社は問題だらけの業務を抱えたとんでもない会社であると思わざるを得ない。


2005年。
4月。JRの未曾有の大惨事。航空業界のトラブル続出とともに、運輸における安全性の問題が強烈にクローズアップされる。
同月。悪質リフォーム問題発覚。
5月。アスベスト問題本格化。とっくに使用が禁止されていたはずの石綿による被害の実態がいまになってようやく明るみに出る。夏が終わるころまでメディアはアスベスト問題を取り上げ続けた。
8月。各地で中規模の地震が頻発、中越・福岡の地震を契機として高まっていた耐震性への社会的関心がさらに前面へ。
10月。郵政民営化法に隠れて静かに耐震改修促進法の改正案を特別国会へ提出。
11月。耐震偽装問題発覚。建築物の構造という「目に見えない部分」の危うさ以上に、作る側、チェックする側、建築に関わる様々なプレイヤーのチェックと安全性への意識が欠如、さらに制度的・構造的な問題が噴出。以後、この事件は1ヶ月以上新聞記事の1面から外れることがなかった。
12月。偽装問題への公的な支援の枠組みとして、解体から建替えまでの財政的支援策が提示されるが、住民側からは不満の声が続発。
同月。耐震改修を促進するための税制上の支援措置が静かに決定。しかし、対象は昭和56年以前の既存不適格建築物であるため、姉歯物件の改修には適用できない(そもそも改修では済まないため適用の余地なしか。)

2006年。
1月。アスベスト対策関連法案(補償法、関連法整備法)が成立。建築物においてもアスベスト含有建材について飛散防止措置が義務づけ。
同月。東横イン問題発覚。耐震偽装と合わさってメディアの反応が非常に大きかったが、企業の社会的責任とコンプライアンスという根本的問題が改めて提起される。バリアフリー法案で違反行為を行った法人への罰則を強化。
3月。鉄道事業法等を改正する運輸安全法が公布、安全管理システムの徹底を謳う。
同月。偽装事件を受けた建築基準法等の改正案が国会へ提出。構造計算の再チェック制度を建築確認に付加するとともに、民間検査機関への監督と、違法行為を行った設計者等への罰則を強化。今回の法案で積み残された建築士制度改革と瑕疵担保責任履行確保のための保険制度は、引き続き検討し夏ごろまでに方向性を提示することへ。
4月。耐震偽装問題の捜査が大詰め。航空各社のトラブルも継続的に発生するほか、高速船の原因不明の衝突事故なども発生。JRでも一年前と似たような事故になりかねなかったのではと思わされる事件が発生。
5月。一部の旅行業者が不確実な商品を販売し、多数の顧客に被害。
6月。エレベータ圧死事故。防火シャッター事故。いずれも建築設備の問題で、偽装事件以来の関心の高まりの中で、これもまた予想以上にメディアの反応が大規模化。
同月。住生活基本法が成立。従来の新規フローの量的拡大から、既存ストックの質的向上への政策体系の変換を、今更ながらに法的に位置づけ。


これだけ世間を揺るがす大事件が多発していながら、「安全性」というたった3文字の言葉通りの効果を発揮させるために100%実効的な措置が、いまだに発明されていないと俺は思っている。

俺にとって、安全の保障に関わる政策ほど、当たり前なのに難しい課題はない。

法律をいじったからってどうにかなる問題では決してない。それで責任が果たされたわけでは到底ない。

あらゆるケースが飛び込んでくることを想定して、システムの全体にわたって安全性ををいかに担保するか。市場化の中で縮小していく行政が最終的に担うべき役割はこの安全性の確保、これに尽きるのに、どうしてもこれという解決策が発明できない。

思えばこの1年、そればっかりに頭を悩まし続けてきた職業生活だった。これからも、微力であっても、いまは誰の力になれなくても、いずれは、と思いながら仕事を続けるしかない。