Mar Adentro (海を飛ぶ夢)

('04西・仏、監督:アレハンドロ・アメナバル、出演:ハビエル・バルデムベレン・ルエダ/、ロラ・ドゥエニャス)

ミリオンダラー・ベイビー」に続き、尊厳死を扱った作品。本作の主人公ラモン・サンペドロは若き日のちょっとした過ちで顔以外が不随になってしまった。尊厳死というと、死期を間近に迎えた人のことを思い浮かべるが、若干違う。たぶん、もしあまりにむごい病状の人のストーリーだと、多くのひとが「死なせてやってくれ」というほうに傾くかもしれない。しかし、ラモンは、体が不随という点以外は、ぴんぴんしてる。何とベッドに寝ながらも、作中で2人の女性と恋に落ちるツワモノだ。

そんな彼が「こんな生き方地獄だ。死にたい。」という。懸命に介護を続ける兄ホセら家族は「何とか行き続けてほしい」「死は一時的なものではない。死んだらもう会えないんだ」と彼の存命を願う。人権支援団体のジュネは、「いざとなったら死の手助けはするが、生きる希望はなくさないでほしい」と助言する。ラモンの尊厳死を法的に擁護するはずが自分も不治の病が発病してしまったフリアは「一緒に死のう」と誓う。やっと優しさをくれる相手にめぐりあったロサは「あなたは私に生きる力をくれる存在」と言う。

ここに尊厳死の問題の縮図がある。彼を取り巻く全ての人の想いはその人なりの当然の想いである。しかし、そうであるがゆえに、彼をさらに苦しめ、追い詰める。確かにラモンの行動を見て、「そんな簡単に命捨てるなよ」と一瞬思ったとしても、もし自分が彼の立場だったらやっぱり、と思うかもしれない。そういう解決しえない矛盾が渦巻くのが尊厳死の本質的な問題の一つなんだろう。

と書くと、かなりくらーい映画のような感じがするが、実はそうでもない。ラモンは結構あっけらかんとしている。尊厳死の映画だというよりは、全身不随の男性のラブストーリーだと言っても間違いではない。冒頭にも書いたが、ラモンは相当なプレイボーイである。ラモンを演じるハビエル・バルデムという俳優は、ニコラス・ケイジジャック・ニコルソンを足して2で割ったような、濃ゆーいマスクの持ち主(後頭部のはげ具合もまさにニコラス)。世の中ひきこもりでちっとも彼女できない悲惨な男どもがたくさんいる中で、このおっさんはベッドにいながらモテモテである。まじすげぇよアンタ。