バガボンド(井上雄彦)

バガボンド(20)(モーニングKC)

前回「リアル」のことを書いたときに長谷川先生に「井上武彦じゃなくて雄彦ね」とツッコまれた情けない経験のある、井上雄彦の言わずと知れた作品。(今回も恥ずかしげもなく「読書」カテゴリーでエントリー)

正月に実家帰ったときにオヤジから1〜11巻を譲ってもらい手で東京まで持って帰り(アホや俺)、今日近所のBOOK-OFFで残り9冊を一気に購入。

話は大きくそれるが俺はよく漫画を一気に買う癖がある。ガキのころ、「ドラゴンボール」を5巻あたりから25巻まで一気に買った記憶がある。「スラムダンク」もバスケに興味を持って読み始めたのが確か海南戦あたりだったから、たしか18巻くらいまでドカンと買った。(そういや、最初、海南の高砂一馬がゴリと見分けがつかなくて苦労したなぁ…)大学受験が終わった直後にも「ワンピース」を10冊ほどまとめ買いした。2年前にも「モンスター」を全巻(18冊)棚からかっさらってレジに持っていったときは店中の注目を浴びたのを覚えている。

要するに何でも流行りだしてだいぶ経ってから漫画を買う性癖の持ち主だということやな。安定志向のタマモノ。だってハズレの漫画って悲しいやん。確実性大好き。ギャンブル賭け事大嫌い。

バガボンドに関してはずっと本屋で立ち読みしてたからリアルタイムで話は追ってたわけだが、立ち読みだと全然記憶に残らんので、やっぱし手元に実物がほしくなったのである。


まぁそういうわけで今日学校から帰ったついでに大塚まで足を伸ばしてバガボンドをかき集めてきて一気に読んだ。



あー……怖いよぅ……


ほんとにこの人の絵は怖い。紙から飛びでてきそう。生々しい。人物の鼓動や呼吸の音がほんとに聞こえてきそう。どうでもいいサブキャラまで生き生きとしてやがる。


俺は昔はこの人の絵のすごい点は、唇や、鼻の下と上唇の間のくぼみをきちんと描いているのに変な絵にならないところだ、などと言っていたが(普通のひとが描くとちびまる子のはまじみたいな顔になること請け合い)、彼の画力のすごさはそんな技術上の問題を超えたところにあるんだと感じた。

正直な話、スラムダンクのときの彼の絵からはそれが感じられなかった。あれはあくまで青春の熱さをボールに乗せてるだけだから。でもバガボンドは違う、命のやり取りを剣の切っ先に乗せている。人物に与えられた重みが違う。だから絵がスラムダンクと比にならないくらい重い。

とくに、人物の印象を全く違うように描き分けるところは注目すべきだ。同じ武蔵でも獣のようなイメージと、2度目の胤瞬戦の澄んだ表情。宍戸梅軒としてある意味平穏に身をまかせていたときと、武蔵と再会して心の底の「死神」が呼び覚まされた辻風黄平の間の大きなコントラスト。武蔵にとって常に憎悪の対象であり闇と同義だった父・新免無二斎が、ある時点を境にすがすがしいイメージへと描き換えられていく瞬間。

人物の心理上の重大な変化を、文字を使わずに彼らの表情を操作するだけで表現できてしまう井上雄彦


まじこえぇよぅ…


筆だけで全部の輪郭を描き切ってしまえるとこもほんとはものすごいんだけど、またそういう話はおいおい。


小次郎に斬られた市三のもとへ駆け寄る満身創痍の新二郎のシーンは危うく泣きそうになる。