博士の異常な愛情(Dr.Strangelove or How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb)

('63米英、監督:スタンリー・キューブリック、主演:ピーター・セラーズ

F教授一押しの一本。もう2年以上もツタヤの陳列棚を見てたのに、今日までずっと見つけられなかった。今日本気になって探してみようと思ったらものの5秒で見つかった。がびーーん…俺の目はほんとにどうかしてるらしい。もしくはツタヤが最近こっそり俺に内緒でこの映画のDVDを仕入れたか。


本作は60年代初頭の緊迫した米ソ関係という環境の中で、スタンリー・キューブリックが世間にぶっ放した一大ブラック・コメディ。


ひたすら「バカバカしさ」だけで覆われた映画だ。しかし、「バカバカしさ」という風呂敷の下にあるのは「核戦争によって人類が全滅する」という極めてシリアスな状況。その皮肉さ。笑っていいのかどうかすら分からない(俺は笑ったけど…)バカバカしさの兆候はオープニング前のテロップが流れる時点からすでに現れており、そしてエンディングのシーンでそれは最高潮に達する。

たった2人の人間の狂気が、人類を絶滅へと導きかねない。
表面上のメッセージはそうなのかもしれないが、本当の狂気は何も2人に限られたわけではない。誰もがことのバカバカしさに気づいていない、人間の愚かしさをキューブリックは、ある意味で非常に温かい目で描いていると言える。


そして案の定俺の観察眼はにぶいので、ピーター・セラーズが彼と彼と彼の、一人3役もこなしていたなんて、見終わるまで全然気づかなかった。(当初の予定では4役やらせるつもりだったが役者が怪我してしまったので3役で断念したらしい。すごいな…)

それにしても、国防省ソ連の恐ろしさの何たるかを声高に主張し「この逆境を利用してソ連を叩き潰すべきです!」と大統領に決断を迫るタージッドソン将軍(ジョージ・C・スコット)の姿が、「12人の怒れる男たち」('57)で最後まで有罪を頑なに主張した血圧の高いおっさんの姿とあまりにかぶる。んで俺的には「ミスティック・リバー」('03)でショーン・ペンが演じていたヤクザ男も似たようなもんだろうと言いたいが、ツッコミ入りそうなのでこの辺で。だってこういうことをフィーリングで言ってる俺自身がこいつらと大して変わらないんじゃねーのかって気がしてきたから。