競争過熱の大阪のタクシーで参入制限

俺が今後研究したいテーマは、規制緩和後の市場に対する行政の新たな関与モデルの構築。

いま、うちの役所の所管分野に限らず、様々な分野で規制緩和のゆり戻し現象が起きているというふうに思っている。サービスの質の低下や安全性の低下などのサイド・エフェクトの存在が指摘されている。それらが、規制緩和によるものなのかどうか、これは一概に言えないと思うが、それでも行政現象としては規制強化の方向へ再び向かいつつある分野が増えてきている。


俺が現在担当している外航海運の世界では、1980年代以降に大きく政府関与が減退した代表的分野である。その結果、みるみるうちに日本籍船と日本人船員が減少し(ある意味絶滅寸前)、変わって外国籍船と外国人船員が圧倒的多数を占める船隊構成に様変わりした。この現象は日本だけでなく世界中で発生しているもので、各船会社から見れば、利潤追求の果ての最も効率的な経営スタイルであると思われる。このような体制をとること自体については、各社の経営戦略上の自由な判断に委ねられるべきものだろう。しかしその過程で、日本法の適用と政府保護が及ぶ輸送手段が大きく減少し、非常時において確保されるべき輸送体制のベースラインを大きく割り込んでしまった。必ずしも市場における調整機能だけでは達成しえない価値、しかも金銭的な評価が極めて難しい価値が存在すると思われる。こうした状況を最低レベルまで回復する手段として各国が導入し、かつ、我が国も先日導入の方向性を決定したのがトン数標準税制と日本籍船・日本人船員の増加計画制度を一体的に措置するという新たな政策である。


以前担当していた建築の世界で起きた偽装事件も、一部からは平成10年の法改正による規制緩和が一因だとする指摘もあった。事実関係を年を追ってみてみると必ずしも制度改正と事件の発生の間に因果関係が存在するということはできない。しかしそれでも、犯罪を誘発しやすい状況が加速してしまったという部分はあるのかもしれないと個人的には思っている。背景的な要因の追求は極めて困難であるが、いずれにしても大規模な偽装事件による極度の社会不安が発生したという事実は間違いない。これに対して緊急で対処措置が講じられたが、結果として現時点でまだ実体の運用面での摩擦が絶えない。


下に紹介するタクシー業界の参入規制の話題も、こうした現象の一類型として捉えることができるのかもしれない。


deregulationという新自由主義的な発想が目指したものは何だったのか。緩和前の制度と、緩和されたあとの簡素な制度+セーフティネットを比較すると、一体どちらが有効かつ効率的なのだろうか。

1980年代以降の日本は、ある意味で壮大な社会実験を行ってきたと言える。しかし、実験室の研究と違って我々行政担当者が提案する政策は、一度実施したら取り返しの効かない類いのものである。

そういうことを念頭に置きながら、単なるセーフティネット論に終わらない、第3の道の提案ができないか、じっくり考えていきたい。


12月14日23時14分配信 産経新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071214-00000967-san-soci

 競争が過熱する大阪地区のタクシー業界について、国土交通省近畿運輸局は14日、新規参入や増車の一部制限に乗り出したと発表した。大阪地区での車両数の抑制は平成14年2月の規制緩和以降初めて。ドライバーの労働条件悪化や事故増加など規制緩和の“負の遺産”が問題になるなか、タクシー激戦区で知られる大阪での取り組みが、全国の規制強化につながる可能性もある。
 近畿運輸局が同日、大阪市堺市東大阪市豊中市など周辺8市にわたる「大阪市域交通圏」を「準特定特別監視地域」に個別指定した。現行制度を弾力的に運用した全国初の措置で、来年8月まで実施する。
 具体的には新規参入や増車を希望する事業者に対し、ドライバーの労働条件に関する計画書の提出を義務付ける。実態が計画からかけ離れた場合は減車や是正を勧告し、事業者名を公表する。
 事業者側に煩雑(はんざつ)な事務手続きを課すことで新規参入や増車への意欲をそぎ、車両数の増加を未然に抑制。ずさんな管理体制の事業者の参入を防ぐことで、利用者にとっては、より安全なタクシーに乗れるというメリットがあるとしている。
 近畿運輸局は、車両数を抑制の理由について(1)多種多様な運賃・料金が設定され、事業者間の競争が激化している(2)規制緩和後の車両数増加が著しい(3)事故件数が全国平均より高い−の3項目を挙げている。
 タクシー業界は14年2月に施行された改正道路運送法で、需給調整のため行われていた免許制から許可制に緩和された。当初から参入や増車を一時的に規制できる例外措置はあったが、適用要件が厳しく、国交省が今年11月に制度を改正。各地方運輸局が弾力的に運用できるようになった。
 一方、収入が落ち込んだドライバーの労働条件改善や燃料費高騰を理由に、全国90地区のうち52地区のタクシー事業者が国交省に運賃値上げを申請。東京など43地区で認可されたが、大阪地区では業界の足並みがそろわず値上げの見通しが立っていない。
 各務正人・近畿運輸局長は「規制強化を念頭に置いたものではなく、運転者の労働条件悪化などの状況にかんがみ、必要最低限の措置を講じることとした。引き続き状況を慎重に見守りたい」とコメントした。