ニライカナイからの手紙

('05日、監督:熊澤尚人、出演: 蒼井優平良進南果歩

泣いた。

別にこの映画の出来のよさに泣いたわけではない。

死ぬまでにしたい10のこと」と全く同じ素材。どうしようもなく締まりと間の悪いショット、カット割り。クライマックスシーンでどう考えてもなじまないクラシック調のBGM(他のシーンの選曲はいいのに)。「暖かく心のふれあいがある島の生活」と「埋没してしまいそうな無機質な都会生活」の極めて短絡的で、観念的な比較。そして、あからさまな郵政公社とのタイアップぶり。

批判めいて俺の心根の悪さがにじみ出るような言葉ばかり書きたくなってしまうこの映画だが、せき止められて渇ききった俺の心のダムを崩壊させるには十分なだけの力があった。


というか、懐かしいこの諸島の風景を映したものなら何でもよかったのかもしれない。主人公が心の底に抱えてるどうしようもない寂しさと、でもめげずに頑張ろうという、別に目新しくもない感情の渦巻きがいまの俺の心持ちにしっくり来すぎて、涙が止まらない。

この諸島を俺が訪れてからもうすぐ1年になろうとしている。

あのときの俺は、何かに焦っていた。別に時間に追われていたわけでもないのに、わけもなく焦って、空回りして、わがままばかり言って、周りのひとに迷惑ばかりかけて、そして一番大切なひとたちの気持ちすら何も分かってあげていなかった。要は自分のことしか見えてなくて、でもなぜか客観的な物事だけはギリギリでうまく進んでいって、その裏でもっと大事な、もろくて危うい何かが、ガラガラと音を立てて崩れていくのに気づいていなかった。

そういう宙ぶらりんな気持ちを俺はそのままあの島々に置いてきたような気がする。

そこから脱却したくて、そして償いたくて、1年間がむしゃらに頑張ってきた。つもりだけど、最近少し我に返ってみると、夢中になって走ってる最中にやっぱり大切なものをぽろぽろとポケットから落としてきたんじゃないかという気がしてならない。

歳を重ねるということは決して悪いことではない。ある意味でそれは視野の広がりをもたらすことになる。だが、広がった視野から飛び込んでくる周囲の事物を自分の中に素直に受容できなかったら、それは本当に歳を重ねたことにはならない。自分を大切にするということは、自分をいつくしんでくれる周囲のことをもっと大切にし、感謝するということである。そこに至らない自分は1年前の自分とも、いや、もっとその前の自分とも何も変わっていない。

あの島へ早く行きたい。だけどそれは、もう少し自分が成長して、この島に置いてきたものを拾いに行けるだけの強さを身に付けてからのほうがいいのかもしれない。