Wag the dog(ワグ・ザ・ドッグ/ウワサの真相)

('97米、監督:バリー・レヴィンソン、出演:ダスティン・ホフマンロバート・デ・ニーロ、アン・へッシュほか)

恩師一押しの映画。その理由が何となく分かった気がする。とてもよく出来た映画だ。

大統領選前に発覚した現大統領のセックス・スキャンダルを、架空の戦争をでっちあげてもみ消すという一大プロジェクトを描いたとんでもない映画。揉み消し屋ブリーン(デ・ニーロ)と映画プロデューサー・スタンリー(ホフマン)がコンビを組んでこの難題に乗り出すが…!

スタイルはデ・ニーロとホフマンのかけあいが絶妙なコメディだが、博士の異常な愛情並みにブラックである。試しにこの映画をいくつかの角度から切り取ってみよう。


アメリカの大統領選のホンネを描いた映画。
選挙戦略をまじめに描いているわけではなく、国民が大統領を選挙する民主主義国家・アメリカで最も重視されているのは、政策そのものではなく大統領個人のイメージであるという皮肉を描いている。スキャンダルのもみ消しをとんでもない方法でやってのけようというストーリーテリングそのものもそうだが、細かい例で言えば、大統領の側近が、大統領に関係する人間を見るたびに「この人、不法就労者じゃないわよね?」と聞くシーンがあるのもまさにそれ。ホフマンに訪れた結末も、そういった延長上にある。


②戦争の質が変化し始めていることを示唆する映画。
デ・ニーロは、アルバニアのテロリスト集団が核爆弾によってアメリカに脅威を及ぼしているから軍隊を出動させたという架空の戦争をでっち上げる。ウソだと勘付いたCIA捜査官に対し、デ・ニーロは「お前らはこんな戦争も見抜けない軍事衛星に国防費を投入しているのか。今や、テロリスト集団の不満分子が好き勝手に戦争を起こす新しい時代に入りつつあるんだぞ。世の中全てが警戒態勢をとるべきだ!」と言い張る。2001年の4年前にすでに娯楽映画でこういう指摘がされていた。そういう新しい変化が起きていると指摘しているにも関わらず、「国内でいざこざが起きたら海外の問題に目を向けさせてもみ消す」という昔ながらの手法で戦争をでっち上げようとする、その皮肉。


③プロデューサーの欲求不満=ハリウッドの不満分子を皮肉った映画。
ホフマンの役は映画ファンならみんな知ってるという数々の映画を成功させてきた名プロデューサー。しかし、監督や俳優、脚本家は賞賛されても、プロデューサーはエンド・クレジットに名前を載せてもらえるだけでちっとも評価してもらえない。ホフマンは言う、「プロデューサーに必要な能力は、良質な作品を作り上げるために、素晴らしい才能をもった人間を集めて創造に向かわせる力だ」。言ってみれば、作品の中身ではなく、外側に関わる仕事だ。いざ作品が出来上がると誰も外側など見向きもしない。そんなプロデューサーの悲哀と不満を歩く名言集・ホフマンに語らせたのがこの映画だ。だけどプロデューサーの運命はやっぱり惨め。ひどいもんだ。

④あべこべの映画。
現代はもしかしたら虚構の塊なのかもしれない。デ・ニーロは、「もし湾岸戦争の戦闘シーンは、俺がテレビ局に命令してミニチュアでやらせたものだったとしたら?」と言う。俺らがテレビを通じて目にしてるものはほんとうに「リアル」なんだろうか。ワグされているのは、実はワグしていると思い込んでいる俺ら(犬)の側なのかもしれない。というこんがらがった世界。それくらい実は世の中虚構に満ちているという警告。


まーこれはあくまでお話ですから。いくら皮肉たっぷりといっても無視してしまえば済む話。だけどやっぱり「そうなのかも…」と思わされてしまう、どこか真実を得ている映画。


ところで公開当時のキャッチコピーはこれ↓だったらしい。。うをー。

やっちゃった。バレちゃった。
大統領はセクハラ隠しのため、ヤラセの戦争をおこした

日曜の晩から3回に分けて鑑賞。だって途中で何度も寝たんだもん…