宇宙戦争

('05米、監督:スティーブン・スピルバーグ、出演:トム・クルーズダコタ・ファニング


《ネタばれ有》

トム・クルーズと一緒に「わめくな!」と思いながらダコタ・ファニングの絶叫にイラつかされた2時間だった、というのでは冗談で(笑)、とんでもねー迫力だ、と評すのもアホらしいくらいすげー。冒頭の地面に亀裂が走りまくって最後に教会まで切り取ってしまうという大胆な発想。実は[人類が活動を始めるずっと昔から地面に侵略用マシンが埋まっていたのであって、時が熟したときに宇宙人たちは雷に乗って地上に降り立つ]という、「うをー」な再構成(原作ガキのころに読んだ記憶の限りじゃそういう話ではなかったような)。


で、前にもどっかで書いたが、宇宙人侵略モノってのは実は宇宙人なんかどうでもよくて(極端な話マクガフィン扱いしてもいいのだ)、宇宙人襲来という前代未聞の脅威に際して人類が見せるパニックや、協力、愛情、憎悪といった人間の本質をえぐりだすための仕掛けにすぎない。本作は忠実にその路線に乗っている。クルーズたちの乗った車を巡って醜い争いを展開する街の人びと、あるいは船に乗り損ねて絶叫する人びと。パニック物映画で奇しくも「パニックになるのが一番危険だ」というセリフを与えられていたにも関わらず、侵略者のおぞましい習性を目撃して一気に頭がおかしくなるティム・ロビンス

しかし、この映画にはパニックものにありがちな「一人勇敢に立ち向かう先天的なヒーロー」(「ボルケーノ」のトミー・リー・ジョーンズ等)がいない。父親役があまりに不似合いなくらいのイケメンであるにも関わらず、トム・クルーズに与えられた役回りは、巨大な怪物を目の前にしてなす術を失い、ただ逃げ惑うか弱い一市民であり、脅威に立ち向かう勇気などない、とことんカッコ悪い男である。でも最後に、娘を怪物に奪われたとき、クルーズはやはり実にカッコ悪いやり方で、敵をぶっ倒す泥にまみれたヒーローになる。ここにはアメリカ的な超人ヒーローはいない。


極めてローな視点でパニックに立ち向かう人間の姿を描いていて、従来の宇宙人侵略物にはないリアルさがあると俺は思った。


どうでもいいが、船がひっくり返って川に沈むシーンを水面から水中までノーカットで撮っているのにはびびった。あんな撮り方できるんやな…。