アホすぎる…けど俺なら気づかなそう…。
昭和1年6月あり得ない! 銀行の過失認め賠償命令
盗難通帳での定期預金払い戻しの際、存在しない「昭和1年6月1日」を生年月日とする健康保険証で本人確認したのは銀行の過失として、通帳を盗まれた東京都内の女性が東京三菱銀行に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は21日、払い戻された定期預金全額に当たる600万円の支払いを命じた。
判決理由で佐久間健吉裁判官は「窓口の行員は、元号変更で昭和64年や昭和1年がほとんどないこと程度は認識しておくべきだ」と指摘。「疑問を抱かず、より確実な本人確認を怠った」と銀行の過失を認めた。
大正天皇の死去で元号が昭和になったのは1926年12月25日。
(共同通信) - 2月21日18時30分更新http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050221-00000157-kyodo-soci
【追記:以下も参照
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20050222k0000m040109000c.html
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20050221AT1G2103921022005.html
http://www.asahi.com/national/update/0221/029.html
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20050221it15.htm】
民法478条のいわゆる「債権の準占有者」の問題ですね(必死に1年前の記憶をたどってみた汗)
せっかくなので内田民法Ⅲを片手に簡単に説明してみようと思う。
民法478条
債権の準占有者に為したる弁済は、弁済者の善意なりしときに限りその効力を有す
まー何のこっちゃって感じです。この条文をめぐる解釈は「そもそも準占有者って何ですか?」ってとこから始めるなど、実に複雑で、類推解釈を含めた適用範囲に関する議論となるともう俺には手がつけられません。なので、そこにはあえて触れません。
とりあえずこの条文のイメージとしては、たとえば
A銀行にBさんが預金していました。ある日A銀行の窓口へ、Cさんがやってきて、Bさん名義の口座から預金を引き出しました。その際、CさんがBさんの通帳や印鑑、本人確認のできる証書を持っていて、それが本物っぽく見えたので、窓口のひとは「この人はBさんだ」と思って預金引き出しの手続きを行ったのでした。しかし、あとになって何とCさんは泥棒だったということが判明したのです!!がびーーん!!
というケースです。この場合あわてふためくのはBさんはもちろん、うっかり払ってしまったA銀行もBさんからクレームが来るのでさぁ大変。
こんなときに478条が機能するわけですが、簡単に言ってしまえば、通帳や印鑑、本人確認証書を見せられたA銀行側に、それらについての確認に落ち度がなかった場合(偽造された通帳等がよほどよく出来ていて、窓口のひとがとても偽造だと気づくはずもないような場合など)は、預金の引き出し行為は有効ですよ、という話になる。つまりCさんがA銀行をだましたのもしゃーないね、ということです。
つまり条文に置き換えてみると、
泥棒C(=債権の準占有者)に対して行った預金払い戻し(=弁済)は、A銀行側(=弁済者)が通帳がいかにも本物だったり本人確認にもほぼミスがないなど、落ち度がない場合に限り(=善意なりしときに限り)、その払い戻しは有効となる(=その効力を有す)
ということになります。
しかし、これだと当然預金者本人であるBさんはあまりに悲惨なので、一応法的な救済ルートがあります。泥棒のCさんに対して不当利得返還請求という訴えを起こすわけですが、まぁ相手は泥棒やしそう簡単に返してくれるとは限りません。ある意味泣き寝入りになるんでしょうか。この辺、実質的な救済措置がどのようになされてるのか知りません。犯人捕まえるしかないかな。
で、冒頭に引用した新聞のケースは、478条が適用されないケースです。裁判官の指摘にもあるように、昭和1年や64年というのは非常に短いので、怪しさ満点なわけです。振り込め詐欺が横行してるこのご時勢、銀行側としては一般人の大金の引き出し行為には十分に注意しておかねばならないところ、600万円の引き出しにあたって本人確認が実にルーズに行われたわけです。「昭和1年6月1日」なんて存在しないんですから…。汗。
ということで、本人確認の際に銀行側に過失があった以上、この件に関するリスクは銀行が負うことになるわけで(この辺の細かい法的構成は他のひとに任せます)、無事預金者は引き出されてしまった600万円戻ってきてよかったね、ということです。
銀行詐欺が多発する昨今、みなさんも財産管理は十分にご注意下さい。
それにしてもまんまと600万円盗んだやつ、まだ捕まってないとしたらおいしすぎるな…。何が何でも逮捕してください。
【追記:一応書いておくと、今回の事件は定期預金から600万円の引き出しと、普通預金のから850万円の引き出しという2つの要素で成り立っています。478条との関係で、通帳や印鑑等のきちんとした確認が求められるのは普通預金であっても定期預金であっても変わりませんが、健康保険証等などの本人確認証書等のチェックまで求められるのは定期預金だけのようです。その理由は、「入出金が頻繁で迅速な対応が求められる」普通預金に比べて、定期預金は「銀行は本来、満期前の解約に応じる義務はなく、普通預金と比べて本人確認の注意義務は重い」からだ、ということです。たぶん同じ窓口・同じ受付のひとが払い戻ししたんだろうに、定期か普通かの違いで850万返ってくるか否かが決まるわけです。常識的に見てあんまり納得いかないけど、おそらく銀行側の過失と、不用意にも通帳を盗まれてしまった被害者側の間のリスク分担を、裁判所が裏で勘案したという部分もあるんじゃないかと思います。】