12人の怒れる男たち

('57米、監督:S.ルメット、主演:H.フォンダ)


有罪確実とされていたある殺人事件について、陪審員の一人が異議を投げかけるところから始まる。12人中11人が有罪だと決めてかかっていたところから、次々に証拠に対して「reasonable doubt(筋の通った疑問)」が投げかけられ、「証拠の弱さ」が明るみになるにつれ、10対2、9対3…と評決が変化してゆく。

ほぼ全シーンが1つの部屋で撮影されている点がこの映画の最大の特徴だ。話はすべて登場人物のセリフと態度によってのみ進展開する。にも関わらず極めてスリリングである。ヒチコックの「裏窓」とほぼ同じ構造だ。

Taxi Driverと比較すると、この映画のもう一つの特徴が鮮明になる。あの映画は一人の男を2時間かかっても説明し切れなかった。名前も示し、彼の家の映像も見せ、仕事の場面を何度も写し、彼が不眠症でありそれがために毎晩ポルノを見に行くのが日課になっていることすら示した。にも関わらず、この男の思考や性格はいまひとつ不鮮明なままだ。

それに対し、この映画は2時間の中で12人の男が目まぐるしく論争する。終幕直前まで誰一人として名前が分からず、ただ彼らの職業が人物同士の雑談の中で示されるだけだが、彼らの個性は強烈だ。好き勝手に議論する12人をまとめようと苦心する陪審員長、見た目は弱気だが自分の意見はしっかり持つ陪審員番号2番、被告人を自分のドラ息子に重ね合わせて個人的感情で有罪を訴える興奮気味の3番、有罪派の要として論陣を張っていた理知的な4番…と、言い出すとキリがないが、各人物のセリフ、話し方、態度、服装を見ればその人物像と背景が、すぐに分かる。さらに、12人それぞれに評決の転換点となる役割を順番に与えている。(但し番号9の老人だけは2回重要な役割を演じるが、それは6番に「老人はもっと尊敬しろ」というセリフを与えたのと同じ理由だろう。)

Taxiのやり方とどっちがいいということはないが、この映画のすごいところは、陪審という、それまでの人生でお互いに何の関係もなかった人間同士が集まった場面の中で、完全に各キャラを無名の存在として描いているにも関わらず極めてリアルにドラマを展開してみせた点だろう。


アメリカは法廷という無機質な空間をドラマ化するのに長けた国だが、この映画は価値観を語る法廷での対決ではなく、単に事実の有無を語る陪審に焦点を当てた。裁判という法の実現過程に素人が参加するのが陪審という制度だが、この点はよく批判の対象になる。しかも素人が参加しているにも関わらず、陪審室の中でどういう議論がなされたかは外部には分からない。そこをあえて描き、合理性と不合理性のぶつかりあいをリアルに描こうとした。有罪か無罪かという二者択一に加え、「筋の通った疑問がある限り、有罪と断定はできない」という選択肢の存在を主張する。

それは、一人無罪の可能性を訴えた建築家の、
「偏見はいつも事実を歪めてしまう」
「私だって何が正しいかなんて分からないんだ」
というセリフによく表れている。


さらに、このような陪審制度の存在こそが「民主主義国家アメリカの強さの理由である」(陪審員番号11のセリフ;彼は移民)とも主張する。


いくつか気に喰わない点はあったが、それでもこの映画の構成力には改めてびっくりしたので文句はないです。てゆーか英米法の試験勉強のために(という名目で)観ただけ。


ところで、俺は昔この映画を観たもんだと思い込んでいた。
ところが俺が観たことがあったのは、「12人の優しい日本人」というパロディの方だったようだ。学校の映画鑑賞会のあと、この映画の上映責任者であるN先生が元ネタの「12人の怒れる男たち」のことを詳しく解説したのが強く記憶に残っていて、勝手にこっちも観た気になってたらしい。ちなみにこのパロディ、三谷幸喜の脚本で、ブレイク前のトヨエツも出ている。

ちなみに、映画鑑賞会とは、中間や期末テストが終わる度に全校生を大ホールに集めて行う、うちの学校の定例行事。基本的に主催者はN先生で、大の映画マニアの彼はコネを使って顔のきく映画館から公開終了後の映画のフィルムをくすねてきては学校で上映していた。

覚えている限りではミセス・ダウト(ご存知)、連合艦隊(当時の俺には凄惨なシーンが辛かった)、ショーシャンクの空に(最近この映画の俺的評価は下がる一方だが、やはりモーガンフリーマンの渋い演技は見逃せない)、デビル(ブラピとハリソンフォードが共演)、レオン(ろりろりチルダ)、十戒(1957年のハリウッドのそれではなく、ポーランドが製作国となった底抜けに暗い映画)、ビフォア・ザ・レイン(これもマケドニアかどっかの底なし沼的暗い映画)…んー。中3・高1あたりに観たはずの映画が全く記憶にない。当時の俺は映画とかかったるいものが大嫌いだったからほとんど寝てた。反抗期やししゃーないね。それにしてもミセスダウトだけちょっと異色やな。


支離滅裂なレビューになったけど眠いからこの辺でzzz